「十一人の賊軍」を観ました。今年3本目の白石和彌監督作品です。
映画「日本任侠伝」シリーズ、「仁義なき戦い」シリーズ、「二百三高地」などの脚本家の笠原和夫さんが残していたプロットを、60年後の今に時代劇として甦らせたのが、この映画だそうです。
当時の東映プロデューサーが、集団抗争で最後全員死ぬという結末が気に入らず没にしたもので、長い間どこかに忘れられていたものを発見されて映画化に至ったらしいです。なんだかこの経緯だけでもすでに面白そうです。ダブル主演の山田孝之さんも仲野太賀さんも好きですし、元モーニング娘の鞘師里保さんも気になります。
江戸時代末期の戊辰戦争のさなか、新潟の新発田藩に旧幕府軍と官軍がほぼ同時に東と西からやってきます。旧幕府派と同盟を結んでいますが若殿様は実は官軍に寝返りたいと考えています。
旧幕府軍は出兵を求めるため新発田城に押しかけて居座っています。もし官軍と鉢合わせしてしまったら新発田藩は戦火を免れることは出来ません。
まだ少年の藩主に代わり実権を握る家老の溝口内匠は、ある作戦を考えます。それは官軍が到着する砦から中には一歩も立ち入らないよう留め置き、その間に旧幕府軍を追い出すというものです。砦を守るのは罪人が10人と侍4人。旧幕府軍の追い出しに成功したらのろしを上げて合図するので、官軍を迎え入れて罪人たちも無罪放免とすると言うのです。
官軍は大勢でやってきて攻撃してきます。新発田チームは圧倒的に弱そうな気がしますが、はたして砦を守れるのか、というのが大まかなあらすじです。
罪状は「侍殺し」「賭博罪」「火付け」「脱獄幇助」「女犯」「密航」「一家心中」と様々。みんな何日も風呂に入っていない様子で顔や体が真っ黒、着物もボロボロです。画面から臭うようです。
「侍殺しの政」を演じる山田孝之さんは太い眉毛と太い体で生命力に満ち溢れています。十字架の形に貼り付けにされていますが、翌日も屈伸したりして、生きるエネルギーがひときわ強めです。政には愛する妻がいて、何が何でも生きて帰らなくてはいけないのです。だから無罪を勝ち取ろうと罪人たちが力を合わせるところ、隙あらばひとり逃げようとします。そこがこの映画の面白いシーンです。
家老役の阿部サダヲさんが凄いです。黒目がちの目で何を考えているのか全く読めません。城内に居座る旧幕府軍に出兵をせかされ、遅くなったお詫びのデモンストレーションとして何人もの首をはねてみせます。豪雨のなか城内の玉砂利の上に首や手足を紐でつながれた人達の首を家老が直々にはねていくのですが、血しぶきが飛び顔が真っ赤に染まり、雨で洗われ、また血しぶき、また雨で洗われの繰り返し。表情1つ変えない家老溝口に旧幕府軍たちもドン引きの表情をみせます。首をはねた人達は「コロリ」と呼ばれる伝染病で隔離されていた人たちです。それを何かの身分に仕立て上げて(ちょっと記憶があいまい…)殺したのでした。実在する人物だそうですが、その子孫の方々は複雑な気持ちになることでしょう。
仲野太賀さんも実直な侍役がはまっていました。砦を守る罪人や侍たちが官軍から攻撃を受け次々と亡くなるなか、最後まで生き残る侍が仲野さんの演じる鷲尾兵士郎です。
罪人達が後で全員殺されると知り、最初の約束と違うじゃないかと憤るシーンは格好良かったです。「私が11人目の賊軍だ」と叫ぶところで、「あーだからこのタイトルなのね」と納得しました。なんか人数が合っていないと思っていたので。
罪人の方々も皆個性的で魅力があり、役割分担もしっかりです。
罪状強盗殺人の「爺っつあん」役の本山力さんは一見ただのお年寄りですが、元剣術家という役なので、いざ斬り合いになると佇まいから違ってきてオーラもあり、とても強いのです。東映京都撮影所の剣会(殺陣技術集団)に所属しているそうで、どうりでってかんじです。
こんな弱小チームで官軍相手に最初から無理だと思うのですが、そこは活劇らしく土地の利を生かし善戦します。
新潟県は昔から原油と天然ガスが産出され、原油があることを知った彼らが周辺を爆発させたのでした。
ようやく4日後にのろしは上がるのですが、砦ではこの争いでたくさんの犠牲者を出してしまいます。
家老の溝口のおかげで新発田藩は無事に戦から逃れることになりましたが、その後、新発田はずっと裏切り者扱いされたそうです。
上手くやったつもりの溝口も最後はとっても不幸なことになり、賊軍はもっとも弱い人間が生き残ります。
鞘師里保さんは若い時の田中裕子さんに似ている気がします。これからのご活躍を応援しています。
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