映画「風が吹くとき」When The Wind Blows 核の恐ろしさ、無知の哀れさ

映画

核戦争の恐怖を描いたアニメ映画です。
1986年に制作され翌1987年に日本で公開されたイギリスのアニメーション映画「風が吹くとき」が、デジタルリマスターでよみがえり2024年8月に公開されました。
公開当時から評判は良かったのですが、何かタイミングが合わず見逃していた映画で、今回こうして観ることでき本当に良かったと思いました。

始まるとすぐに聞き覚えのある歌声が!と思ったら、主題歌はデビット・ボウイさんでした。ファンでした!
日本語(吹替)版を大島渚監督が担当し、主人公の夫婦ジムとヒルダの声を森繁久彌さんと加藤治子さんが吹き替えました。大島渚監督はデビット・ボウイさんと「戦場のメリークリスマス」からの友情で日本版演出を引き受けたそうです。
ほのぼのとした絵柄のアニメーションで、登場人物はコロコロしています。ずっと家の中と庭だけでストーリーが進み、国や街の様子はほとんど登場しません。

映画が作られたのはちょうど米ソ冷戦時代です。その時代の戦争を検索すると、ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻やイラン・イラク戦争、インドネシアの東ティモール侵攻、中越戦争があり、内戦中の国は、レバノン、アンゴラ、ニカラグア、エルサルバドル、スーダン、スリランカ等と次々と出てくるので、こんなにも諍いがあったのかと驚きました。この映画のように戦争が始まりそうだと噂があってもすぐには始まらないだろうと考えがちですが、急に戦争が始まり、ミサイルが発射され、核爆弾が落されるのはリアルな事だと思えました。ロシアのウクライナ侵攻もクリミア半島のことがあったにせよ、私からみて唐突に始まった出来事でした。

ジムとヒルダはイギリスの田舎で老後を穏やかに生きていました。二人ともぽっちゃり丸い顔をしており、いかにも善人な様子です。ある日、戦争が近いらしいと聞き、ジムは外出先で政府が作成した「核シェルターの作り方」という指示書をもらってきます。早速その通りに核シェルターを作り始めます。
それがどうも眉唾物なのですが、ジムは政府のことを信じて疑いません。政府の指示に従うのは国民の義務だと言います。指示書には「家の中のドアを数枚外して壁に60度の角度で立てかける」と書いてあります。60度の角度が分からず文房具店に分度器を買いにいく始末です。回りにいくつもクッションを置きようやくドア製核シェルターは完成しますが、これは核シェルターではなく、単なる隙間です。

公式HPを拝見すると、これは真実だそうです。1974年~1980年までイギリス政府はドアとクッションで核シェルターを作る事をリーフレットに載せ配布していたそうです。あまりにもいい加減すぎませんか。イギリスだってアメリカのマンハッタン計画に参加してた核保有国の1つでしょ。信じられません。

日本では核シェルター付きの家はほとんどありませんが、海外では違うようです。イスラエルやスイスは普及率100%、ノルウェー98%、アメリカ82%と続きます。韓国のソウル市内はなんと323.2%です。
もし本当に核ミサイルが飛んできたら、Jアラートが鳴り響いたら、日本人は対応出来るでしょうか。

そして、ラジオが「我が国に向けてミサイルが発射されました。」と言います。すぐにドア製の核シェルターに隠れるふたり。画面はピカピカチカチカし、核爆弾が落ちたことを表現します。
ラジオとテレビは点かなくなり、電気ガス水道も止まります。街は壊滅しました。多分その地域で生き残ったのはジムとヒルダだけです。
次の日になって新聞も牛乳も届かなくなりますが、二人は「爆弾が落ちてすぐだから無理もない、色々大変なんだろう」と言い合い、静かに政府の指示書通りの生活を送りながら、国の救助を待つことにします。
水や食料は備蓄があるのですぐに困ることはありませんが、ためておいた水も食料も放射能を被っているし、ヒルダは「何も見えないし匂いもしない、本当に放射能かしら」と半信半疑です。でももう二人の回りは放射性物質だらけなのです。

二人は次第に体がだるくなり気力が落ちてきます。歯茎から血が出て、髪の毛が抜け落ちていきます。それも静かに淡々と描きます。目の下のクマが真っ黒になり、頬が削げていきます。体がだるくて何もする気が起きないと言い、ただ二人並んで寝ています。相変わらすラジオはしゃべらないし新聞は配達されないし、いつまで経っても誰も助けは来ないのです。最初はこの夫婦の無知さにイライラを感じましたが、段々悲しくなってきます。今このブログを書きながら思い出すと、鼻の奥がツーンとして涙が出そうです。

このまま映画は終わります。ほのぼのした絵柄のアニメーションだから少し中和されていますが、実際に考えるととても怖いです。戦争は今もいたるところであります。戦後の日本は平和教育というものを行ってきて戦争は絶対反対と考えますが、次の戦争が待っている可能性はゼロとは言い切れません。

監督:ジミー・T・ムラカミ

原作・脚本:レイモンド・ブリッグズ

主題歌:デビット・ボウイ

音楽:ロジャー・ウォーターズ(元ピンク・フロイド)

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