ソウル郊外の農村部に建てられた、黒いビニールハウスで生活する中年女性が主人公です。
ビニールハウスって家賃いくら位なんでしょうか。電気ガス水道はどうしているのでしょうか。
韓国では半地下にも住めずビニールハウスに住む貧困層が問題になっていると新聞の記事が伝えています。
真冬に暖はとれているのでしょうか。
主人公のムンジョンは離婚後、少年院に入っている息子を待ちながら、元大学教授の家で訪問介護の仕事をしています。
訪問先の元大学教授テガンは失明しており、自身も初期の認知症であることを知っています。そして将来を悲観しています。
テガンの妻フォオクも認知症が進行し、被害妄想が強く攻撃的になっています。
私の亡くなった祖父も被害妄想の気があったので、そういう事は理解できます。
ムンジョンはフォオクに暴言を言われたり唾を吐きかけられても、怒ることなく丁寧に接し、テガンから厚い信頼を得ています。
ムンジュンには夢があります。それはビニールハウスを出てまともな部屋に息子と一緒に住むことです。お金も貯めてして念願のアパートを借りるため、あともう少しです。
また、ムンジョンは自傷行為が止められず、病院から紹介されたグループセラピーに通っています。
その自傷行為とは自分で自分の顔を平手打ちしてしまうこと。
1発で治まればいい方で、2発3発と続く時もあれば、それでも満足せず全身を叩いてしまいます。
そのシーンは見ていて辛かったです。手のひらも痛いし、叩かれた頬も頭も体も心も痛かったでしょう。
ある日、介護の仕事でフォオクをお風呂に入れている時、暴れ出して転倒し頭を強く打ち動かなくなってしまいます。
お風呂場のタイルの上に血がジワジワと広がります。
早く救急車を呼んで!と私は心の中で叫びますが、ムンジュンは息子との生活を願い過ぎて、そのことを隠蔽してしまうのです。
なんで、なんでですか?
携帯電話をを取り出し電話しようとしますが、偶然息子から電話がかかってきます。
息子との生活が目前で事を荒立てたくないと、ビニールハウスの自宅に遺体を隠してしまいます。決して悪意人ではないのですが、無かった事にしようと考えてしまうのです。
もう後戻りできません。嘘をつき続けなければならないのです。ムンジョンは入院している自分の母親を退院させ、身代わりとします。
目が見えないテガンはすぐに気がつきません。
一気に悲劇は進行します。
グループセミナーで知り合ったスンナムは、「小説家の先生」と称する男に囲われていますが、どうも暴力を受けている様子です。
そのことに同情したムンジョンは、一時的にビニールハウスで同居させます。
次第に過度に依存してくるようになったスンナムを煩わしく感じ始めたムンジョンは「そんなにイヤなら殺しちゃえば」と思わず言ってしまいます。
真に受けたスンナムは実行に移してしまいます。もし捕まって犯行動機を聞かれた時、「ムンジョンに言われたから」といいかねません。
テガンは妻と無理心中を。本当は妻ではなくムンジョンの母親と。
出所した息子は仲間達と黒いビニールハウスで酒を飲んでいますが、人の気配がして思わず隠れます。人とは母親ムンジョンなんですけど・・・。
ようやく新しいアパートを手に入れたムンジョンは、すべてを捨て去るように、黒いビニールハウスの家に火を放ちます。
もちろん息子が中にいる事は知りません。
真面目に生きてきたのに。もうすぐ救われるはずだったのに。
不幸の連続すぎて逆に笑える、まったく救いがない、ある意味韓国らしい映画です。
ムンジョン役はキム・ソヒョンさん、美しい方です。化粧っ気のない顔で、それがより一層幸薄そうにみえます。
グループセミナーで知り合うスンナム役のアン・ソヨさんも出番は少なかったけど、強い印象を残します。
韓国では演技派として知られ、海外の映画祭でも何度かノミネートされたようです。
監督・脚本・編集は、これが長編デビュー作となるイ・ソルヒさん。1994年生まれの若い女性の方です。
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