「市子」 どんな事をしても生き抜く いつも真夏

映画

杉咲花主演「市子」を観ました。原作は「川辺市子のために」という舞台であり、その劇団の主宰であり脚本を書いた戸田彬弘が監督を務めました。
サンモールスタジオ選定賞2015において最優秀脚本賞を受賞した作品との事で期待が高まります。

映画では市子が失踪した28才までの人生が描かれ、市子に関わった人たちの証言で物語は進みます。

2015年8月12日は花火大会の前日、市子は恋人の長谷川(若葉竜也さん)から浴衣と帯のプレゼントと同時にプロポーズを受けます。
市子は泣いて喜びますが、翌日の13日、花火大会の当日に行方をくらましてしまいます。

数日後、長谷川は警察に捜索願を出し刑事(宇野祥平さん)が家にやってきます。ハンガーに掛けた浴衣が風に揺れています。
刑事は長谷川に衝撃的な事を告げます。「川辺市子」はこの世に存在していないと。
長谷川は市子の過去をほとんど知らず、刑事と共に市子と関わりのあった人々を訪ねて行きます。

 同じ団地の幼なじみのさつきの証言。
 小学校時代の同級生の梢の証言。
 高校時代同級生の北の証言。
 新聞配達のバイト先の下宿で一緒だったキキの証言。
 無戸籍支援の会「アガシ」の担当者の証言。

次々と真実が浮かび上がってきます。

市子は離婚後300日前に生まれたため母親が出生届を出さず無戸籍であり、
妹の筋ジストロフィーが進行し学校に通えないことで、妹の「月子」として学校に通っていたのです。

いくつか印象に残ってるシーンがあります。
1つは高校生の市子が月子の呼吸器を外す真夏のシーンです。夜働く母親に代わり、いつも市子が月子の世話をしています。
ずっと呼吸器がシューシュー音を立てていて、月子の目と、汗をしたたらせる市子の顔が交互に映しだされます。
月子の目がまっすぐ市子を見ています。クルクルを目が動き市子の顔を追いかけています。
市子の目は真っ黒で感情がありません。やがて音は止まり、呼吸器を外したのだと分かります。
母親が外出から帰ってきて状況を知ります。市子に「ありがとう」と言い、鼻歌を歌いながら洗い物を始めるのです。
残酷なシーンでした。
母親は背中を向けているので分かりませんが、最初は安堵、その後泣いているようでした。
後年、市子の妹「月子」の白骨遺体は生駒山から発見されます。

市子は一見無邪気ですが、、何を考えているのか分からない大人びた表情を見せまます。
高校生男子ならチョロいでしょう。彼氏がいるのを知りながら、同級生の北(森永悠希さん)は市子に夢中になります。
残暑の中、市子は母親の男に体を求められ刺し殺してしまいます。
その様子を北が目撃し、北の協力で踏切に死体を運び事故として終わらせることに成功します。
二人で母親の男を始末したのです。

北にとって市子はファム・ファタールです。
真夏の強い日差しから急に夕立がやってきます。市子は喜んで体を差し出すように雨にうたれます。
たまたま市子の後をつけてきた北はその姿から目が離せなくなり、結局家までついていき事件に遭遇するのです。

北は自滅していきますが、市子はその後もしぶとく生きていきます。

獣のような気配を感じます。

長谷川が市子に再会できる日は来るかどうか分かりません。でも、市子はどんな手を使ってでも生きていく予感がします。

恐るべし!杉咲花!

#市子 #杉咲花