本『なぜ、沢田研二は許されるのか』コンサートドタキャン騒動に、ファンが怒らなかったわけ。

いつもの通り本屋をぶらぶらしていると、この本を発見し、即購入。著者は田中 稲(たなか・いね)さんです。
以前ブログにも書きましたが、沢田研二さんは私の初恋のひと。最近の昭和歌謡ブームで、沢田研二さんの存在が若い人たちに知られるようになり、再ブームが訪れているらしいです。
たしかにコンサートに行くと若い人が増えていることを実感します。女性の声援に混じり、男性の声援もだいぶ前から聞き覚えがあります。
関東圏以外のコンサートは行ったことがありませんが、渋谷公会堂、神奈川県民ホール、東京ドーム、横浜アリーナなど、私が行ったコンサートは常に満員でした。

2018年にさいたまスーパーアリーナのドタキャン騒動がありました。当初理由が分からず、私が心配したのが体調不良でした。
9000人入るホールで7000人分しかチケットが売れておらず、一部のシートが黒い布で覆われており、「こんな状況では歌えない」というのがドタキャンの理由でした。
謝罪の記者会見をしましたが、かなり批判を受けていました。でも私はドタキャンの理由がこれで良かったと思いました。もし体調不良だったら、もし大きな病だったら、もっとショックです。
外見が衰えた太ったって言う人も多かったですが、ファンもみんな一緒に平行移動ですから、文句は言えません。その後私を含めファンが案外怒っていない様子が伝わると、批判の報道が一気に落ち着いてきました。
なぜ怒らなかったのかを私の言葉で言うと、ジュリーの全てを認めているからです。
歌を変にアレンジせず昔の通りに歌ってくれ、声も変わらないので、安心して聴くことが出来ます。
やっぱり満員のコンサートホールで、ファンにキャーキャー言われながら歌うジュリーが見たいのです。

この本には共感しかないです。10才の時にジュリーに出会いはや50年超、私の気持ちはすべてこの本が代弁してくれています。
昔の歌をほとんど歌わない時期がありました。これはもしかしたら試されているのではないか。全部新しいアルバムの曲で構成されたコンサートの、なじみの曲が全くない中で、篩いに掛けられてる気分になったことがあります。
「どや、ついて来られるか」的な、勝手な想像ですが。ファンに対する塩対応も有名です。私が子どもだったころ、年間100万円を使い全国追っかけをするファンがいると女性週刊誌に記事が載りました。本当ですか?昭和40年後半か50年代初め頃の100万円ですよ。


やがて20代半ばの頃、横浜のコンサートで、全国ついてくるファン、いわゆる追っかけの顔を見つけると「毎回来るな。もっと他の人にも来てもらいたい。他にやることあるだろう。」とステージ上で厳しめに注意していました。私は「あの週刊誌の記事は本当だったんだ」と知り、ジュリーの場合「お客様は神様」ではないんだと理解しました。

著者の田中さんは俳優の沢田研二さんについても書いています。映画は何本も出演していますが、2006年「幸せのスイッチ」という映画では電器店を営む頑固オヤジを演じており、この映画を観た著者はこのように感じたそうです。
「ジュリーはずっと前から、早く年を取り、老けたかったのではないかな」と。私も同感です。若い時にさんざん外見の良さをたたえられたせいなのか、整形する芸能人を尻目に、若さや美しさに執着が無いような気がしていました。

2022年に沢田研二さん主演の映画が公開されました。「土を喰らう十二ヵ月」は評判も良くて、第96回キネマ旬報ベスト・テンの主演男優賞を受賞し、他にもいくつか受賞しました。
沢田研二さんは信州の山荘で一人暮らしの作家ツトム役です。四季の移り変わりの美しさとツトムが作る精進料理の美味しそうな様子が魅力の映画です。心筋梗塞で倒れ一命を取り留めた後、恋人とも別れ、死を意識し出すようになります。
「俺はこのまま死んでしまうかもしれない」と考え、夜は床に入ると「みなさん、さようなら」と言い、朝起きると「あー生きてる」と毎度言います。このシーンがとっても可愛いのです。「可愛い」は最大級の褒め言葉です。


全編を通してジュリーが魅力的です。この映画を観て、老いて死ぬ事を考えるのがらくになりました。もしかしたら自分は孤独死するかもしれないけど、そんなに辛い事じゃないかもしれないと思うようになりました。ただ発見した人が困るだろうから、年を取ったら持ち物はなるべく減らしたいと考えています。
この映画の感想やエピソードも、この本にたっぷり書かれています。ぜひお勧めします。

やがて2023年、さいたまスーパーアリーナーでコンサートが再び行われます。チケットは1万9000枚が完売。75才のジュリーは、白旗ではなく見事に情熱の赤い旗を振りきったのでした。
2024年コンサートツアーは現在も続いています。


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