映画『関心領域』ホラーに頭痛と吐き気がした。

映画

大きな家が建っています。家の主はアウシュビッツ収容所の所長、ルドルフ・ヘスです。
お庭の芝生が青々と美しく、滑り台付きの子ども用プール、大きな温室にたくさんの植物、白いテーブルと椅子があり、そこでティータイムを楽しめます。
丹精込めて手入れした庭には花々が咲いて、庭の塀には蔦を植えました。

塀の上からアウシュビッツ収容所の、同じような形の建物がいくつも並んでいるのが見えます。何本もの煙突が太い煙が吐いています。
四六時中、悲鳴や銃声が向こうから聞こえますが、その家に住む者は何も聞こえないようです。もしくは無視しているのか、どちらかです。

その家ではポーランド人のお手伝いさん数人と、庭や畑では囚人が働いています。

アウシュビッツ収容所に焼却炉会社が新しい焼却炉の売り込みに来ています。『荷』が400~500は一度に処理出来ると言います。皆、『荷』の意味を知っていますが、それは何かを言いません。

大きな家では妻のヘートヴィヒがテーブルの上に綺麗な洋服をどさっと置き、お手伝いさんたちに「どれでも好きな物持っていっていいわよ」と言います。何人かの女性たちはそれぞれ好きなものを選びます。
別のシーンではヘートヴィヒが毛皮のコートを着て、鏡の前でヒラヒラと回っています。
また別の場面では、女性が大きなダイヤの指輪をして「歯磨き粉の中から見つけたの。さすがユダヤ人は賢いわ。」と、言います。

その家の子どもたちは、誰かの金歯をいくつも、ビー玉かサイコロの様に転がして遊んでいます。

ヘス家では時々パーティが開かれ、子ども達がプールで遊んだり、大人達は着飾ってお酒を飲んだりしています。

特に何事も無く淡々と日常生活が過ぎ去っていきます。

ある日、ヘートヴィヒの母親が訪ねてきます。スーツケースを持って来たのでしばらく滞在するのでしょう。
母親を自慢の庭を案内し歓迎します。でも、夜になり辺りが静まりまえると、隣のアウシュビッツ収容所から銃声と、犬の鳴き声、人間の声か機械の音か分からない、うなりのような音が部屋の隅々まで入ってきます。
翌朝、母親は何も言わず帰ってしまいました。

幼い娘が眠れずにいるのを見かけたルドルフは、ベッドで娘に絵本を読んできかせます。
すると、ここからモノクロに変わり、これは夢か現実か分からないのですが、ひとりの少女がぬかるんだ道を歩きながら、泥で出来た壁にリンゴを1つ1つ埋めていく描写に変わります。これは何を意味するのか分かりません。
キリスト教では、リンゴは何かを象徴する食べ物だったような気がします。

時々、ウシガエルのような音楽が鳴ります。

ルドルフに転勤の命令がきます。ヘートヴィヒは行きたくないと猛反対します。自然の中での一戸建ては自分が少女の頃からの夢だったこと、今まで丹精込めて庭を造ってきたことを訴えます。仕方なく夫はひとり単身赴任することにします。
やがて任務が終了し、軍の上役の部屋を出てから。急に吐き気に襲われます。階段で少し吐き、少し歩いて、また少し吐きます。

ルドルフが廊下の左右を見渡すと、一瞬で画面が変わります。

現代のアウシュビッツ記念博物館です。廊下を誰かが掃除機をかけています。別な人は展示物のガラスを拭いています。展示物はすすけた色の靴の山。別の窓には大量の本が山積みになっています。
気持ちの悪い旋律が鳴り続けます。エンディングでした。見終わったあと、頭痛と吐き気がしました。
「なんてイヤな気分にしてくれたんだ!」

この家族はアウシュビッツ収容所で何が行われていたのか、知っていたはずです。幼い子どもは仕方ないとしても、家族揃ってあまりにも鈍感です。
この映画で収容所の中は一切描かれません。すぐ隣の建物で殺戮が行われている事に、これほどまでに無関心になれるものでしょうか。

監督はユダヤ系イギリス人ジョナサン・グレイザー氏です。第76回カンヌ国際映画祭グランプリ、英国アカデミー賞、第96回アカデミー賞国際長編映画賞・音響賞の2部門受賞ほか、いくつもの賞を受賞しています。

以前より情報が多くなった世界で、自分の関心領域を狭めてはいけないと感じます。

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