4月10日映画「オッペンハイマー」を観た             音楽が鳴り止まない

映画

昨年世界で公開されたアメリカ映画「オッペンハイマー」を観ました。
広島長崎の悲惨さが描かれていないとかバービーのなんとかミームでいいイメージ無く、公開されても行かないかもと考えていました。
でもやっぱり話題になった映画だし、クリストファー・ノーラン監督だし、結局観てしまいました。

モノクロとカラーが交互に、時間が過去に戻ったり現在だったり、登場人物も多く少し混乱します。予備知識があったほうがいいかもしれません。
全編音楽が流れています。

若いころから物理学の天才として名を馳せたJ・ロバート・オッペンハイマーは、1942年38才の時、ロスアラモス国立研究所所長に任命され、開発チームのリダーになります。
マンハッタン計画と呼ばれ、原子爆弾を製造するために作られた組織です。
全米の優秀な科学者が集められ、ニューメキシコ州の先住民を追い出し作られた広大な地に、家族ごと移住させました。
やはりアメリカ、やることがデカいです。

その前に科学者アルベルト・アインシュタイとオッペンハイマーが出会うシーンがあり、湖の畔で二人は少しの会話をします。
すぐ後を追いかけてきたルイス・ストローズはアインシュタイに挨拶しようとしますが、なぜか無視されてしまいます。
怪訝な顔をするストローズです。

なぜ無視されたのかは何の説明もなく、ストーリーはこの出来事を忘れたかのように進みます。
でもこの事は、人生を大きく変えてしまう大きな出来事なのです。後から驚愕しました。

1920年代初頭からアメリカで共産主義の思想や運動が広がります。
オッペンハイマーは入党していませんが、元カノは共産党員、妻は元党員、弟も党員です。

アメリカで共産主義の思想が広がった歴史は知りませんでした。早速検索してみました。
アメリカ社会党というものが出来て1970年代くらいまで存続したらしいですが、消滅はしていない様子です。

でも、みんな平等になったら一番困るのは資産家の人々。すぐ潰しにかかるでしょう。
オッペンハイマーは若いころからFBIに目をつけられてらしいです。

1945年5月にナチスが降伏したため原子爆弾は日本に落すことが決定します。
その前に東京大空襲で10万人が亡くなり、降伏も時間の問題だと知っているにも関わらずです。
最初はドイツに先を越されるな、でしたが、今はソ連に先を越されるなという思いで研究を進めています。
もうこの頃にはソ連を意識していたのです。

いよいよ実験の日が近づいてきます。
ふと、研究員の一人が核爆発で大気中に連鎖反応が起きて、地球全体の空気が燃えてしまうのではないかと考えます。
可能性はゼロでは無いとオッペンハイマーはいいますが、実験を行うことにためらいはありません。
7月には「トリニティ実験」に成功します。その時の様子が美しさを感じます。イメージフィルムのようです。

音楽が止まることなく続き、この場面はバイオリンがキリキリと高音を奏でます。
発射のカウントが始まると、赤いボタンを押す誰かの指が緊張で震えています。
そして音楽は止まり無音になります。続けて黒い縁取りの真っ赤な炎がもくもくと広がり、次々とつながって爆発します。
その間はまったく音の無い世界です。

少し間をおいて、爆音が鳴り響き、大きな風が、暴風がサングラスした研究員達に当たります。
皆が喜び、音楽も再開します。

8月広島長崎に投下されます。投下後の様子の映像を科学者たちは見ますが、オッペンハイマーはまともに見る事が出来ません。
靴をダンダンと踏みならす音がし、変わりに気持ち悪い幻覚をみます。
人間の叫び声が聞こえ、強い光をあびた女性の肌が溶けてゆき、足元には黒焦げの死体が絡まっています。
画像が反転し、黒が白に、白が黒に変わり、実験の景色がフラッシュバックします。

科学者たち「何千人死んだ?」「2~3万人?」「広島で7万人、長崎で5万人、その後10万人死んで、22万人死んだよ」

まるで死んだ人間の数ではなく、単なる数字を述べているかのようです。

そして終戦後、オッペンハイマーは原子爆弾を作って戦争を終わらせたということで称賛されますが、本人は苦悩し始めます。
科学者として作り出したものが大量破壊兵器とは、多くの科学者も苦悩したことでしょう。
ホワイトハウスに招かれトルーマン大統領と面会したとき、「私の手は血で汚れているように感じます」といいます。
しかし、トルーマン大統領は「それを命令したのは私だ。手が血で汚れているのは私のほうだ。憎まれるのは私だ」(うろ覚えですがこんな感じ)と怒りをあらわにします。
確かに計画を立てて実行に移したのは、政治家ですからね。原爆投下を最終的に決断したのもトルーマンです。

戦後、米ソ冷戦が本格的に始まります。オッペンハイマーは水爆開発を反対し、原子力委員会のルイス・ストローズと対立を深め、やがてソ連のスパイを疑われます。

赤狩りの時代です。無実の人も大勢公職を追われたようです。以前からFBIに目をつけられ、身辺調査され、家庭で捨てたゴミも調べられていました。

オッペンハイマーは水爆開発になぜ反対したのでしょうか。
良心の呵責に苛まれたのか、どの国も大量破壊兵器を作り出すことを懸念したのか、明確には答えていません。

1954年50才のころ、ソ連のスパイ容疑をかけられ、公聴会が開かれます。
オッペンハイマー以外にも、同僚や妻や家族まで尋問を受けます。かつて共産党に入党していた恋人の話までさせられます。
かつての恋人は風呂場の浴槽に顔を沈めて死んでいました。自殺か他殺かわかりません。そんな時代だったのでしょう。
公聴会の仕組みはよく分からないのですが、採決があり、有罪に反対したのが、なんと大統領になる前のジョン・F・ケネディです。

結局スパイの容疑ははれましたが、公職を追われます。
誰がオッペンハイマーを落としこんだのでしょうか。それは、個人的な恨みを抱いていたルイス・ストローズです。

物語の最初の方でアインシュタインとオッペンハイマーが湖の畔で何か会話しますが、ラストもそこに戻ります。
肝心なシーンなのですが、二人が何を話したのか忘れてしまいました。世界が滅亡するような事だったような気がします。
それより無視されたストローズが「アインシュタインに無視されたのはオッペンハイマーが自分の悪口を吹き込んだに違いない」(確かこんな感じ)と言うところに大変驚きました。

この映画はカラーとモノクロ交互になっているのですが、カラーがオッペンハイマー視点、モノクロがストローズ視点で描かれていることを後から知りました。
事前に知っていればもっと深く内容が分かったのに残念で仕方ありません。

若い時のオッペンハイマーか誰かが黒板に長い数式を書いて「美しい・・・」とつぶやきます。おもわず福山雅治さんのガリレオを思い出しました。
高校時代に選択科目で物理を取っていたのに、全く物理を忘れています。もっと真面目に勉強すればよかったと事ある度反省します。

原爆を開発した科学者の高揚感と苦悩、当時の政治の様子が分かります。

この映画は他の人が言うように、被害の様子が描ききれていない気がします。

日本以外にも先住民に対して行ったことや、ロスアラモスで被爆した人や、ビキニ諸島での実験。

これらを描いて世界の人に見てもらえる映画を誰かに作ってほしいです。

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