ボブ・ディランの名前は子どもの時から知っていました。
1972年ガロが歌った「学生街の喫茶店」に「~学生でにぎやかな この店の片隅で聴いていた ボブ・ディラン~」という歌詞があります。
どんな人かは知らなくても、私の同世代の日本人は皆、彼の名前を知っているでしょう。
あとは「風に吹かれて」というヒット曲と、ギターをエレキに持ちかえてファンから非難をあびたことと、ノーベル文学賞を受賞したことくらい。よく知らないけどこの映画を観てしまいました。
1961年のマンハッタンにギターをもった目つきの鋭い青年がヒッチハイクでたどり着きます。彼はあこがれのフォークシンガー、ウディ・ガスリーに会うためやってきました。でもウディ・ガスリーは病気で入院中。どうやって調べたのか病室のガスリーを見つけたディランは、彼のために作った曲を歌います。そこに居合わせたガスリーの親友の人気シンガーのピート・シーガーはディランの才能を見抜き、彼の推薦によりナイトクラブの小さなステージで歌うことになります。
そこで音楽マネージャーや有名プロデューサーの目にとまり、プロデビューが決まります。ここまでトントン拍子です。会話の中でマンハッタンに来る前は「サーカス団にいた」と言うのですが、家族を懐かしむ様子も無く、本当かもとうっかり思わせます。
教会で出会ったシルビィ・ルッソと恋に落ちます。
1962年キューバ危機が起り、アメリカは核の脅威にさらされます。テレビやラジオが核爆発の危機を伝え、荷物を抱えどこかに逃げ出す人も。私にとって歴史上の出来事ですが、これがどれだけ恐怖だったか伝わります。そんな夜にディランはライブハウスで若者たちの前で歌い続けていました。偶然立ち寄ったフォークシンガーのジョーン・バエズは激しく心が揺さぶられ、夜を共にします。
翌朝、危機は去ったというニュースが流れ、「風に吹かれて」を口ずさむディランに、名曲がこんなにあっさりと歌われるとは思いませんでした。浮気の翌朝に歌われるとは。映画なので真実とは違いますが、シルビィ・ルッソのモデルになった女性が後にインタビューに答えたり60年代を回顧した本を出版しているので、浮気者だったことは本当でしょう。結婚も数回しています。
1963年人気が爆発し、アイドルのように女性ファンが追っかけます。一時もサングラスを外さず、ポケットに両手を突っ込み、猫背で歩き、夜は浮名を流します。成功の道を突き進み、少々調子に乗っているようです。
だけどディランのフラストレーションは募っていきます。彼の表現したいものはフォークでは収まらなくなっていきます。フォークにはフォークの良さがありますが、もっと刺激的な音楽を求めるようになります。
この年ジョン・F・ケネディが暗殺されます。時々60年代前半の大事件を挟み、当時の世相も描いています。
1965年、ディランはフォークギターをエレキギターに持ち替え、ロックサウンドの「ライク・ア・ローリング・ストーン」を発表します。純粋なフォークソングに決別します。
ここまでの経緯も、従来のフォークソングを求める者と新しい音楽を表現したいディランがぶつかり、大勢の反対にあって色々大変でした。演歌歌手がロック歌手に転向するとか、そんな感じかもしれません。演歌ファンは納得いかないでしょう。勝手に裏切られた気持ちになるかもしれません。あるいは氷川きよしさんを応援していたつもりが、いつの間にかkiinaさんになっていて戸惑うっていう感じかもしれません。私は氷川きよしさんもkiinaさんも大好きです。
やがて、ニューポート・フォーク・フェスティバルのフィナーレをボブ・ディランが飾ることになります。野外の大きなステージです。もちろん観客は従来のフォークソングを期待しています。
ボブ・ディランはかなり自己中な性格です。自分に正直なあまり回りの人間を傷つけ、優しい恋人のシルビィと別れ、複雑な関係にあったジョーン・バエズと別れ、支えてくれたピート・シーガーと別れ、憧れていた闘病中のシンガーのウディ・ガースリーに別れを告げます。
そしてクライマックスです・・・。
ボブ・ディランを演じたのはティモシー・シャラメ。5年間かけてボイス・トレーニングを行い、ギター、ハーモニカを習得したそうです。だから劇中の歌はすべてティモシーが歌っています。他にもジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロの歌もいいし、少しだけ出演する黒人シンガーの歌も全ていいです。また、バックバンドのメンバーも渋くてカッコイイです。60年代ファッションが素敵です。皮のジャケットがボブ・ディランによく似合っています。
ボブ・ディランは伝記映画が作られてしまったけど、現役を続けており、ライブも常に変化(いしわたり淳治さんがいうにはアップデート)しているそうです。人生のうちのたった5年間の名もなき者時代を描いた映画です。昔の曲を変にアレンジするのは私は好きじゃないけど、それが常にアップデートしているなら毎回ライブが楽しみだと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
応援クリックしていただけると励みになります。

にほんブログ村
#ボブ・ディラン #名もなき者 #伝記映画 #ティモシー・シャラメ