「あのたった1本の書評のおかげで私は今でも鳴かず飛ばず!」と、大御所作家・東十条宗典(滝藤賢一さん)を逆恨みする売れない新人作家・相田大樹こと中島加代子(のんさん)。新人賞受賞作がいまだ単行本にならなくて、第2作が書けないのも、東十条に酷評されたのが原因だとする加代子ですが、そう言っているのは本人だけなので真実かどうかは分かりません。
80年代の昭和末期が舞台です。カラフルでポップでノスタルジックな雰囲気が、のんさんにピタリとはまっています。朝ドラの「あまちゃん」が大好きで、のんさんの出演映画はほぼ観ています。2022年「さかなのこ」のミー坊役も最高でした。加代子は性格が悪いという設定ですが、いつもがむしゃらで、回りを竜巻のように巻き込んでいくさまは痛快です。
大学時代に演劇をしていた加代子は、その才能を使い様々な手で文学界をのし上がり人気作家になろうとします。この演技力が見所の1つでもあります。
楽しいシーンが連続します。
山の上ホテルで執筆している東十条を妨害して原稿を落させる。銀座のクラブでお酒を飲みまくり歌いまくり踊りまくり気がつくと東十条に請求書80万円。ペンネームを「有森樹李」と替えて再デビューし再び新人賞受賞。書店で万引きの常習犯を捕まえる。愛人のママさんに買ってあげた着物を借りて東十条家に上がりこみ家族と仲良くなっている。
滝藤賢一さんは毛量が多い白髪頭で、昭和の権威主義の大御所作家・東十条を演じています。大御所なはずなのに、手段を選ばない加代子に翻弄され、自分の家族も懐柔され、すこし可哀想です。でも時には、ふたりの担当編集者の遠藤道雄(田中圭さん)を落とし込むため共闘したりもします。
東十条は遠藤から「タレント作家」と言われて激怒し、加代子とタッグを組み仕返しを企てます。クリスマスに、ふたりはサンタクロースとトナカイのダサい着ぐるみを着て、遠藤の幼い娘たちに「本当はサンタクロースなんていないよ」と悟らせる作戦です。だけど子どもたちは既にサンタクロースは両親が仕組んでいることを知っていて、この作戦は失敗します。
田中圭さんはずいぶん前の映画で、悪役を演じた時にあまりにも非道の役だったので、しばらく苦手になってしまいました。それだけ上手だったと思います。加代子の大学時代の先輩でもある敏腕編集者遠藤は、本音が見えません。この人だけリアリティがあります。
遠藤が担当することになった天才女子高生作家・有森光来役に、2020年「ミッドナイトスワン」でデビューした服部樹咲さん。いつのまにか18才になり、大人っぽくなっていました。
遠藤が「イノセンス」を感じると惚れ込んでいます。ホテルのラウンジで制服姿のままで打ち合わせする姿に、「大人の言うことを信じてはダメだ!」と言いたくなるような、守ってあげたい気持ちにさせられます。でも、誠実で繊細さを感じる彼女は自然消滅してしまいます。もっと彼女が大人になるまで待っていてあげたら結果は違ったかもしれません。遠藤焦りすぎです。
自分のことを「僕」というカリスマ店員役で橋本愛さんが出演しています。「隣々堂書店」勤務の彼女は、ポップを書けばその本がたちまち売り切れるといわれるカリスマぶりです。加代子は偶然起きた意外な方法で彼女にポップを書いてもらうことに成功します。このシーンもとても面白いです。
ふたりは「あまちゃん」のほか2020年「わたしをくいとめて」でも共演していて、「あまちゃん」ファンとしてはふたり一緒のシーンはやっぱり特別感があります。今年の3月公開の橋本愛さん主演映画「早乙女カナコの場合は」で、のんさんが有森樹李(加代子)役で出演します。こちらも楽しみです。
文学界というところは、作品が良いだけでは出世できないらしいです。出版社や大御所作家のような権威に逆らってはダメみたいなのですが、その世界に居たことがないので想像できません。文学賞は選考委員が決めるということなので、やっぱり選考委員の覚えめでたいと受賞しやすいのでしょうか。
日本文学振興会のHPの「よくある質問」の中で「芥川賞・直木賞はどのように選ばれるのですか?」という質問に答えていますが、あっさり「年2回選考委員の討議によって決定します」としか答えていません。ちなみにノーベル文学賞は選考に関する情報は50年間秘密にしなくてはならないと決まっているそうです。
ほかにも銀座のクラブのママに田中みな実さん、東十条の娘役に髙石あかりさん、銀座のクラブに居合わせた俳優役に橘ケンチさん(短いシーンでしたが昭和の大物俳優・宍戸錠さん風でインパクトが有りました)。
とにかく楽しく笑えてスッキリする映画でした。
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